

何も語らなくても、お互いがキスをしたがっているということが自然に感じられる瞬間がある。
唇と唇が急接近し、
相手の少し荒くなった呼吸が唇のにおいとなって、
ほのかに香ってくる。
ああ、これがキスのにおいなんだ、とそのとき思う。
意識が相手の唇一点に集中する。
相手の吐く息を自分が吸い、自分が吐く息を相手が吸う。
キスって、唇と唇が触れ合うだけじゃないんだ。



相手の唾液が自分の口の中に入り込んで、自分の唾液と混じり合う。
好きではない人の唾液が自分の口の中に入ってくると思うだけで虫酸が走るのに、
好きな人の唾液だと不思議と許せてしまう。
というか、むしろ嬉しい。
そうか、キスってすべてを許せるということなんだ。

キスを止めるタイミング。
それは電話を切るタイミングに似ている。
ずっとふたりで話していたい。
でも、いつかは電話を切らなければいけない。
だから、ふたりは唇の中でタイミングをさぐりあっている。



キスを止め、唇と唇が名残惜しそうに離れたとき、
女の子はちょっぴりは恥ずかしそうに微笑む。
それは、今この時間が決して夢ではないということを再認識する瞬間。
女の子は知っているんだ。それが決して夢ではないということを。
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